ミシェル・フーコー(Michel Foucault 1926-1984)が亡くなる直前、『性の歴史2 快楽の活用』、『性の歴史3 自己への配慮』が相次いで刊行され、それまでフーコーの仕事に親しんできた読者の多くは、そのスタイルと扱われている対象の変化に当惑したといいます(何故突然の平明な文体、何故古代における自己への配慮へのテーマの転回なのか、ということですね)。前著刊行から8年間の空白期間への憶測がさまざまになされ、理解が深まらないままに晩年の仕事への否定的な評価が口にされることも少なくなかった訳ですが、時は経ち、単行本未収録の論文・インタヴュー等をまとめた『思考集成』が刊行され、コレージュ・ド・フランスにおける講義録の公刊が進むことで、「後期フーコー」思想に接近する環境は、この20年ほどで一変しました。また、イタリアの思想家たちを中心に、「生政治」「生権力」「コントロール」といった、後期フーコーの鍵語(実際にこれらの語をフーコーが使うことは稀ですが)が、ジル・ドゥルーズやジャック・デリダの政治論、動物論と突き合わされ検討・使用されることで、情報化社会時代の新たな政治性の分析に、後期フーコーの思想が応用される場面も多く見られるようになったことは周知のとおりです(しかし、こうした文脈で最もまとまった議論を展開している講義録『社会は防衛しなければならない』の邦訳書が版元で品切れになり久しく、また、後期フーコーを知るうえで不可欠な『思考集成 第10巻』をはじめ、品切れのタイトルが増加していることも事実です。復刊を希望します)。
以上のような状況の変化を踏まえた優れた研究が多く現れてきているなかで、昨年刊行された箱田徹さんの『フーコーの闘争』(慶應義塾大学出版会)はとりわけ、フーコーの「統治」概念に着目することで、個別に検討されがちであったフーコーの政治思想と倫理思想とを一貫した高い問題設定において説得的に論じ、若い世代の研究者による清新なフーコー論の出現を強く印象付ける一冊でした。このたび、フェアを開催するにあたって箱田さんに選書リストと各タイトルへの小解説を提供していただいたことは、没後30周年を機に、フーコー思想を通して立ち現れる問題の一端を、書籍を並べることで書店において可視化する貴重な機会となりました。『フーコーの闘争』でも取り上げられた「自由主義」をめぐるフーコーの政治・経済思想や、フーコーがルポルタージュを執筆した当時のイランの情勢を理解するうえで欠かせない書籍を含む多彩なタイトルが揃っております。ぜひこの機会にご覧ください。
(神田神保町店3階思想・哲学書コーナーにて、会期は2015年2月上旬までを予定。箱田徹さんによる選書リスト&コメント所収の特製フェア冊子を、会場にて無料配布中です)。