R・ボラーニョ著『2666』(白水社)を読む――越川芳明さん×小野正嗣さんトーク・セッション開催!!

きっかけは越川芳明氏によるR・ボラーニョ著『野生の探偵たち』(白水社)の書評だった。

 ――『野生の探偵たち』は遺作の『2666』と共に、移民が常態と化し国境がゆらぐ21世紀の現状を扱うこれからの若い日本の作家たちが目指さなければならない作品である。『××××』(※某超ベストセラー小説)などで大衆を煽ってマスターベーションをしている御用学者・批評家たちは、これを読んで世界の水準を知ったほうがいい(「図書新聞」2010年7月31日号掲載を抜粋、一部修正)。

 となれば、まさに名実ともに大著であり、ボラーニョの遺作でもある『2666』が刊行された今、その「世界水準」を存分に語っていただこうではないか。
 対談のお相手はクレオール文学の研究者として、また、作家としても大活躍の小野正嗣氏。小野氏の広い視野、世界の文学へと開かれた回路は、『2666』をどう受け止め、咀嚼したのだろうか。世界の文学は今……、いや、文学は世界だ。

 ここ10年に刊行されたメガノベルの中で、ボラーニョの『2666』は、ダントツに素晴らしい。放浪のボヘミアンたちを書いた『野生の探偵たち』(白水社)も食事をとる時間を忘れるほど没入したが、この作品にもやられた。原書はスペイン語で書かれ、一応「ラテンアメリカ文学」というジャンルに振り分けられるだろうが、そんなジャンル分けなど吹っ飛んでしまうくらいに、そのテーマの世界性/普遍性によって、はたまた数多くの風変わりな出来事や登場人物たちをめぐるマニアックな描写の執拗な積み重ねによって、読み手をぐいぐい引きつける。きたるべき数十年間、「世界文学」の極北として君臨するはずだ。(越川芳明)

 チリに生まれ、青年期に母国の軍事クーデターに遭遇、メキシコ、フランス、スペインを渡り歩き、50歳で死んだボラーニョの遺作『2666』は、星の明滅のような含み笑いで我々をくすぐりつつも、最後には砂塵と淡い悲しみでかすむ広大な暮景のなかに置き去りにする。この茫漠たる荒野の真ん中に屹立(あるいは陥没)するアルティンボルディという謎のドイツ人作家を中心に、死をにじませた言葉が、無数の挿話を発生させ次々と脱線を繰り返しながら増殖していく。心打たれる詩情と練り上げられた思弁が、それを相殺する俗悪さと陳腐さとまぐわいながら、小説をますます異形の怪物にする。美しいが随所に悲惨な戦争の記憶を抱えたヨーロッパの懐かしい風景と、グローバル化の縮図である殺伐としたボーダー地帯の暴力と貧困の日常に、すなわち悲しみとしての世界に、巨大な砂漠の真ん中でひとり対峙する突然変異。これと交わらない手はない。(小野正嗣)

<プロフィール紹介>

越川芳明(こしかわ・よしあき)氏=1952年千葉県生まれ。明治大学教授(アメリカ文学)。著書に『ギターを抱いた渡り鳥 チカーノ詩礼賛』、『トウガラシのちいさな旅』など。訳書に、J・ハスケル『僕はジャクソン・ポロックじゃない。』、S・エリクソン『エクスタシーの湖』、R・クーヴァー『ジェラルドのパーティ』ほか多数。

小野正嗣(おの・まさつぐ)氏=1970年大分県生まれ。作家、明治学院大学文学部専任講師(フランス語圏文学)。2001年「水に埋もれる墓」で朝日新人文学賞、2002年「にぎやかな湾に背負われた船」で三島由紀夫賞を受賞。著書に『マイクロバス』、『夜よりも大きい』、『獅子渡り鼻』など。共訳書にV.S.ナイポール『ミゲル・ストリート』、アミタヴ・ゴーシュ『ガラスの宮殿』など。

開催日時:2月28日(木)18:30~20:30(開場18:00)
開催場所:神田神保町店6階東京堂ホール
参加方法:参加費800円(要予約 ドリンク付き)店頭または電話・メール(shoten@tokyodo-web.co.jp)にて、件名「越川さん小野さんイベント参加希望」とお申し出いただき、お名前・電話番号・参加人数をお知らせ下さい。イベント当日と前日は、お電話にてお問い合わせください。
電話 03-3291-5181
※当日16:30より1階総合カウンターにて受付を行います。参加費800円(ドリンク付き)をお支払い頂いた上で、店内カフェにて指定のドリンクとお引換えください。尚ドリンクの引換えは当日のみ有効となります。(終演後は引き換え頂けません)